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禊
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厳寒のこの日、波の華が飛んでくるほど風が強く、体感温度は気温よりもかなり低い。氏子たちは全員歯を食いしばって響灘の荒波に揉まれながら身を清める。見るからに寒そうで、白波の中で禊をしたあと、走って引き返して来た。
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かんごりや ふどしにだんを たくするに
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しめ縄張り
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氏子らは身を清めた後、暖をとることもなく、直ちにしめ縄張りの作業に入った。背に若宮という文字の入った半纏を羽織っている人たちは老年組で、若者たちの危険な岩場の作業を支援する。
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氏子らは荒波の打ち寄せる岩場に登り、打ち合わせた手順と役割分担に従って、淡々と作業を進める。
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彼らが身につけているのはふんどしと鉢巻だけで、命綱をつけておらず、極めて危険な作業である。強風にあおられれば転落する恐れもある。
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冬の裸祭りでは、飲酒により身体を暖めて参加することがよくあるが、この岩場の神事では、酩酊していてはとても危険で作業は行えない。
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風だけでなく、寒さで手足の感覚が麻痺すると大変である。岩場の下に転落すれば、大怪我は必至で、打ち所が悪ければ命を落としかねない。
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これが企業活動であれば、直ちに労働基準監督署から警告・指導を受けるところだろうが、神事ということで許されるのだろう。氏子たちに神のご加護があることを祈る。
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ふんどしの前垂れが強風ではためいている。強風と寒さに晒されながらの作業である。
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二見夫婦岩の伝説
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伝説によると、毎年9月の末から10月の初めにかけて、馬地山から大蛇があらわれ、夫婦岩から出発して、鯖釣岬の外れにある饅頭のような形をした壁島(龍宮岩)に参拝し、夫婦岩を目標に帰るという。大蛇が参拝を終わると、夫婦岩の注連縄が切れると伝えられている。
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伊勢の夫婦岩
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二見の夫婦岩といえば、伊勢の二見町にある二見ヶ浦の夫婦岩が有名である。朝日の遥拝所として知られ、5月・9月・12月の年3回行われるしめ縄張りの光景は、写真やテレビでもよく見かける。
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しかし、しめ縄張りを厳寒の正月に、しかも裸の氏子が行うというのは、豊北町の二見だけである。
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1時間足らずの作業で無事に大注連縄を張り終えた若者達は、夫婦岩を慎重に降りてくる。 |
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氏子たちは冷え切った身体を焚き火で暖めながら、竹筒に入ったお神酒を竹の盃に注ぎ、一気に飲み干して神事を終えた。無事に大役を果たして引き揚げてきた氏子たちは、みな安堵の表情を浮かべていた。 |
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大注連縄が張られた二見夫婦岩 |
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山口新聞の報道によると、二見夫婦岩のしめ縄張りは、約160年前から続く伝統の神事だという。 |
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二見若宮神社では、毎年10月21日に秋期大祭が催され、神輿を担いで海に入る海上御渡がある。多くの観客が見守るなか、煙火を合図に、しめ縄張り神事と同様のふんどし・鉢巻き姿の氏子たちが次々と海に飛び込むさまは壮観で、海の幸に恵まれた二見の秋の風物詩となっている。 |
豊北町公式サイトの中野修町長の挨拶が印象的だ。「本町の目指すべき方向は、元気をおこすまちづくりであり、住民や各種団体など、多様な主体による町づくりを展開することが必要であります」 と。豊北町では、地域住民により、日本古来の伝統文化が脈々と育まれていることを嬉しく思った。〈
完 〉 |
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