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 旅紀行日本の裸祭り

2003年6月7日改訂

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BGM

2003年6月1日制作

白糸の滝

 前原(まえばる)市は、福岡市の西隣に位置する。白糸(しらいと)の滝は、前原市南部の背振(せぶり)山地の羽金山(はがねやま 標高900m)の北斜面を流れる長野川の源流にかかる落差24m、幅12mの優雅な滝である。流れる水が白い絹糸のように見えることから、この名がある。

 前原市の白糸地区にある熊野神社では、毎年年末に氏子たちが白糸の滝の清水が流れる長野川で水垢離をとる「白糸の寒みそぎ」と呼ばれる神事が行われる。
 この神事は、室町時代に疫病や大火に見舞われ、この地が寂れかけていたため、これを立て直そうと山伏が始めた荒行が起源とされ、現在は住民らによって受け継がれている。

熊野神社

 熊野さまを祀る神社は全国で3,273社あるという(神社本庁「祭礼データ」の祭神名検索の結果による)。熊野神社は、主に家津御子神(けつみこのかみ=素盞鳴命)、熊野速玉男神(くまのはやたまおのかみ=伊邪那岐命)、熊野夫須美神(くまのふすみのかみ=伊邪那美命)を祀る。
 ちなみに、熊野三山とは、東牟婁郡本宮町(ひがしむろぐんほんぐうちょう)の熊野本宮大社(くまのほんぐうたいしゃ 本宮)、新宮市の熊野速玉大社(くまのはやたまたいしゃ 新宮)、熊野那智大社(くまのなちたいしゃ 那智)の三社の総称である。  早春の熊野三山

寒みそぎ

 熊野神社の「寒みそぎ」は、五穀豊穣などを祈願する神事であるが、奇祭として知られる。この裸祭りは、既に400年も前から続いている伝統行事で、前原市の冬の風物詩となっている。
 12月18日午前0時、一番太鼓を合図にふんどし一丁になった男たちが神社境内に集合し、二番太鼓でお祓いとお神酒で無事に行事が終わるように祈る。
 三番太鼓を合図に、提灯と松明を持った男を先頭に、新米の奉納米が入った桶(おけ)を担いだ未婚の年男3人があとに続く。
 総勢約100人が約200mをひた走り、長野川に設けられた「みそぎ場」に入る。年男たちが奉納米を研ぐ間、氏子たちは滝から流れ落ちてきた身を切るように冷たい清水で身を清める。「オイサ、オイサ」と掛け声をかけながら激しく水をかけ合う姿は圧巻である。

氏子たちの衣装は、白晒の越中ふんどしに地下足袋か裸足である。白タオルを後ろ鉢巻に締めている人もいる。ふんどしは各自が用意するようで、まちまちの寸法だ。子供たちも大人の締める越中ふんどしをしており、大きすぎてもてあまし気味のようだ。

高張り提灯を先頭に、竹を束ねた松明が続き、桶を担いだ3人の年男が川の土手を下る。

総勢約100人の氏子たちがみそぎ場に入り、輪をつくる。

寒みそぎ褌に暖をたくするに  北舟

かんみそぎ ふどしにだんを たくするに

資料
気温4度、水温6度のなか、腰まで水に浸かりながら、氏子たちの輪が広がる。矢張り寒そうだ。

奉納米を七回研いで七回濯ぐ約15分間、裸の男たちは「オイサ、オイサ」と大きな掛け声を出しながら、肩を組んで円陣を作ったり、互いに激しく水を掛け合う。

資料
みそぎ場は、長野川をせき止めてつくったもの。上手の石段で、3人の年男が清水で米を研いでいる。
寒さを紛らすためか、次第に激しい揉み合いが始まる。中には勢い余って転ぶ男もいる。激しい運動と水の抵抗でふんどしが乱れているが、男たちは気にもとめない様子だ。越中ふんどしは激しい揉み合いには不向きだが、神社の禊ぎ用の伝統衣装として定着している以上、六尺ふんどしには替えられないのだろう。

米が研ぎ終わると、提灯を先頭に引きあげる。

お神酒の升酒を飲んで冷え切った身体を内部から暖め、焚き火で暖をとる。

 みそぎ場の上手で研がれた米は、境内で竹を薪にした露天釜で炊かれた後、高く細く積み上げて神社の祭神に供えられ、その傾きにより翌年の豊凶を占うという。
 刃物を使うと栄養が落ちるという山伏の言い伝えから、包丁を使わずに手でちぎったコンニャクの混ぜご飯でつくった特大のおにぎりが自慢で、寒みそぎが終わったあと、刃物を入れない長いままのタクアンと青菜漬けとともに参詣者にふるまわれる。

 行事が終るのは4時近く、帰路につくころには冬の夜がしらじらと明ける。

 

 厳寒の中、神職や住職、それに信者がふんどし一丁で厳かに水垢離をとる光景は良く目にする。しかし、熊野神社では、以前は敬虔な氏子たちが凍るような白糸の滝の清水で厳粛に水垢離をとっていたに違いない神事も、いつしか寒さを紛らすために肩を組み、水を掛け合い、揉み合うという、いわばお祭り騒ぎになってしまったようだ。

 そうでもしないと、このような地味な神事は長続きせず、やがて氏子たちから敬遠され、廃れてしまうだろう。
 白糸の寒みそぎに若者の参加が多いことは、現代においてもこの神事が地元の人々に受け入れられている証であり、頼もしく思う。これからも大いに気勢をあげて1年の汚れを落とし、清々しい気持ちで新年を迎えていただきたい。《完》
写真提供: 若者の祭

 注:本稿は、匿名のDVDビデオから静止画キャプチャしたもの、「若者の祭」提供による写真及び資料画像により編集したものである。

白糸の寒みそぎ 熊野神社「寒みそぎ」 毎日新聞お天気ユース 前原市ホームページ

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