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本堂には、閻魔大王の前で最後の審判を受け、地獄に送られた死者の末路が描かれた地獄絵図が掲げられている。嘘つきは舌を抜かれたり、針の山を登らされたり、火の車など子供のときに親から教わった恐ろしい地獄の沙汰がありありと描かれている。 |
地獄に描かれた青鬼・赤鬼・黄鬼・緑鬼は、着物を着た鬼も見えるが、殆どが白と黄色の前袋式六尺褌を締めた裸形である。肌に直接褌を締めている鬼のほか、虎皮の褌の上に褌を締めている鬼もいる。鬼の褌が一様に前袋式であるのは、前垂式だと作業をするのに緩んだりするためであろう。 |
地獄に落ちた男たちは、全員白褌一丁の裸形である。三途川(さんずのかわ)を渡ったところで、脱衣婆(だつえばば)が経帷子(きょうかたびら)と呼ばれる白装束をはぎ取ってしまうため、男性は褌、女性は腰巻のみの裸形にさせられてしまうからである。白褌なのは、死装束が白に統一されているため、色柄褌を締めていた者も湯灌のあと、新しい白褌に着せ替えられるためである。男たちは、六尺褌のほか、越中褌と思われるものもあり、中には猿股のようなものも見られる。江戸時代の男性の下着は褌だったので、この地獄絵は、江戸時代に描かれたものでは無いのかも知れない。 |
閻魔大王の前に数珠つなぎされた男たちが連行されて来ているが、前垂式の褌をしている。全員盲目で剃髪しているので座頭たちであろう。最初は僧侶かと思われたが、寺に納める絵図に地獄に落ちた坊主を描くことはないと思われる。彼らの下着は越中褌が普通なので、前垂式六尺褌ではなく、越中褌と考えられる。数珠つなぎの男たちを連行する黄鬼も越中褌らしく見える。座頭担当の鬼だからだろうか。 |
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閻魔大王は死後五週間目(五・七日忌)に天・人・修羅・畜生・餓鬼・地獄の六道の何れに送るかの裁判を行う。嘘をついても浄玻璃(じょうはり)の鏡に罪が映し出される。死後四十九日目に判決が確定し、直ちに執行される。閻魔はインドの死の神ヤーマであり、中国で閻魔大王となって日本に伝わった。閻魔の本地は地蔵菩薩である。 |
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千葉県安房郡三芳村延命寺には、16幅の絵巻が保存されている。この絵巻は、天明4年(1784)江戸の絵師によって描かれたものだが、絵師の名は不明である。この絵巻に描かれた褌姿
(部分)を見てみよう。 |
三途川では、渡河を躊躇している死者を投げ入れている赤鬼が描かれている。虎の毛皮の上に緑色の前袋式六尺褌を締めた裸形である。後ろに控えているのは、前垂式六尺褌一本の盲目の男性で、杖と数珠を持っており、座頭と思われる。最初は、死に装束の白衣を着ているはずなので、初めから裸形というのは少し解せない。後ろの女性二名も着物をはぎ取られたのか裸でいる。よく見ると男と同じ褌をしている。江戸時代の女性も褌をすることがあるのだろうか。 |
三途川「壱」 |
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こちらも赤鬼だが、緑色の前袋式六尺褌を直接肌に締めている。投げ入れられている男は、既に白衣ははぎ取られたらしく、前垂式六尺褌一丁の裸形である。 |
三途川「弐」 |
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▼ 三途川を渡ると、脱衣婆(だついばばあ)が待ち構えていて、死者の白衣をはぎ取ってゆく。死者は三途川を渡る前に赤鬼に裸にされているので、同じ絵巻で矛盾があるが、こちらが本来の姿で、男性は褌一丁、女性は腰巻一枚の裸形となる。地獄絵図によっては、着衣が全てはぎ取られ、全裸となるものもあるが、光明寺も延命寺も慈悲があるのか、褌腰巻までは、はぎ取らない。下の男性は前垂式六尺褌だが、一般男性は、この前垂式が普通だと思う。 |
脱衣婆 |
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▼ 閻魔大王の前に連行されている男たち。全員盲目で、先頭の男は杖をついているので、座頭の一団である。光明寺の地獄絵図と同じように、数珠つなぎにされている。光明寺とちがって、こちらは前垂式六尺褌である。座頭は越中褌が普通だが、江戸時代における死出の旅姿は、越中褌の老人でも経帷子の下に白い前垂式六尺褌を締め たのであろう。鎖を持つ緑鬼は、直接肌に白の前袋式六尺褌を締めているが、後ろの結び目が不自然である。葛飾北斎のような達人であれば、このような描き方はしないだろう。 |
閻魔大王の下へ |
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▼ 頸木(くびき)刑の男性は、前垂式六尺褌一丁だが、三角巾の天冠(てんかん)をつけている。これは死装束(しにしょうぞく)の定番で、幽霊の絵にも描かれているが、光明寺の地獄絵ではまったく見られず、延命寺の方もやっと見つけられた。天冠は地域によっては頭巾(ずきん)や額烏帽子(ひたいえぼし)などとも呼ばれるが、一説には、閻魔大王に会うのに、失礼の無いようにとの意味があるという。そうであれば、地獄絵に無くてはならないものなのだが・・・。 |
頸木刑の男性 |
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以上見てきたように、江戸時代の絵師が描いた延命寺の地獄絵図を見る限り、鬼たちはカラフルな褌を楽しんでいるが、死出の旅に出た男たちは、白い前垂式六尺褌を締めるのが一般的であることが分かる。また、丁髷(ちょんまげ)の元結(もとゆい)は切られて、頭髪は後ろに垂れている。
「ふんどし談義」用随筆 |