老人は、玄関で荒鬼の加持祈祷を受けた後、コップ酒に巻き寿司・ゆで卵を用意して、一行を接待した。

　しかし、荒鬼はそれでは気が済まないと見え、居間のガラス戸を開けて中に入り、仏壇で祈祷した。老人は上がってもらうつもりがなかったと見えて古い茣蓙（ゴザ）などを準備しておらず、荒鬼は土足のまま座敷に上がってしまった。先祖供養のあと、老人は酒食を仏間に移し、再接待した。

　二軒目は老夫婦宅で、既に翌日になっている。鬼踊りの合図で居間のガラス戸を開けてもらい、中に入った。このお宅は古い茣蓙を敷いていて、土足に対応していた。

　荒鬼は仏壇に礼拝したあと、お二人の身体をさすり、無病息災を祈祷した。

　この後も荒鬼は予定された民家を順に廻り、鬼踊り、仏壇礼拝、スキンシップによる加持祈祷、酒食の接待というメニューを繰り返し、荒鬼の分担する10軒全てを訪問した。

　こちらのお宅では、高齢のお婆さんが出迎えてくれた。荒鬼に向かって手を合わせて拝んでいる。荒鬼は仏であり、ご先祖様の化身でもあるからだろう。

荒鬼は、お婆さんの手をしっかりと握りしめ、無病息災と長寿を願って加持祈祷した。心温まる触れ合いだった。