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■■■ 「釣上古式子供相撲土俵入り」速報! ■■■ |
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平成21年(2009)10月18日(日)、埼玉県さいたま市岩槻区釣上(いわつきく・かぎあげ)220に鎮座する釣上神明社(かぎあげ・しんめいしゃ)(高梨佳樹(たかなし・よしき)宮司)において、平成17年(2005)2月に国の重要無形民俗文化財に指定された「古式子供相撲土俵入り」が行われたので、密着取材した。 |
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300年を超える歴史を持つ「古式子供相撲土俵入り」は、地区の氏神である釣上神明社に子供たちの健やかな成長を願って奉納される伝統行事で、戦時中でも中断なく行われてきたという。子供のことを真砂(まさご)ともいうことから「真砂土俵入り」とも呼ばれ、「子供の土俵入り」とも云われる。釣上神明社例大祭は、毎年10月21日に近い日曜日と定められており、今年は10月18日(日)に開催された。 |
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【凡例】 ▲:上の画像の説明文 ▼:下の画像の説明文 〈画像の左クリック〉:別窓に拡大写真を表示 |
行司宿・磯野家の前庭(さいたま市岩槻区釣上) 2009.10.18 12:20 |
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▲▼ 今年、土俵入りを奉納した宮本を中心とする子供たちは、幼稚園児から小学6年生17名の元気な男児たち。12時に行司宿である磯野家に集合し、前庭で裸になり、幅の狭い子供用の越中褌を締め、その上に化粧まわしを締めてもらった。 |
行司宿・磯野家の前庭で化粧廻しを身につける子供たち |
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▲▼ 子供たちが身につけている化粧まわしは、誕生を祝ってあつらえた専用のもので、表に名字が表示されている。日輪や鷹、虎、鯉など勇壮で縁起の良い柄を刺繍したものが多く、その豪華さ如何によって値段が決まるが、安いものでも20万円はかかり、高いものになると天井知らずという。前垂れの裾の表か裏に鈴がつけられているので、動くと鈴の音が響く。男児を授かった親の喜びと愛情が代々豪華な化粧まわしに表されてきた。 |
和やかな雰囲気でお爺さんやお母さんに自分の化粧廻しを締めて貰う子供たち
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▼ 赤い紋付襦袢(もんつき・じゅばん)を羽織った子供たちがリーダーの6年生を囲んで円陣を組んだ。土俵入りのポイントを復唱し、最後のおさらいをしたあと、気合いを入れた。豆力士たちの頼もしい出陣式である。 |
円陣を組んで気合いを入れる豆力士たち 12:45 |
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▼ 午後1時から神社で例大祭の神事が行われ、その終了を待って赤襦袢を着た豆力士たち17名が裸足のまま行司宿を出発し、年少者を先頭に一列縦隊で200mほどの距離を歩いて宮入りしたあと、参拝した。 |
行司宿から釣上神明社に宮入りした裸足の豆力士たち 13:50 |
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▼ 本殿と水屋の間に今年新調されたばかりの相撲場があり、豆力士たちは赤い紋付襦袢を羽織ったまま、土俵の東西に分かれて整列し、高梨宮司によるお祓いと祝詞奏上が行われた。 |
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▼ 今年の行司は金子友和さん。古式子供相撲土俵入りの指導者である。宮司の後、土俵にあがり、東西南北の徳俵に御神酒を注いで土俵を清める儀式を行った後、祭壇が取り除かれ、土俵中央の盛り土を東西南北に崩した後、行司を先頭に豆力士たち全員が土俵に上がった。 |
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土俵に上がった赤い紋付襦袢の豆力士たち 14:09
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▼ 土俵を一回りしたところで、襦袢を脱ぐと、隠れていた豪華な化粧まわしが現れた。力士たちは、輪になって土俵を廻り、化粧まわしを観客たちに披露した。 |
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襦袢を脱いで豪華な化粧まわしのお披露目 14:10
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▼ 化粧まわしの披露が終わると、古式子供相撲の土俵入りが始まった。最初は、年少組8人の出番。年長組9人が土俵の南に正座して見守るなか、片手を額に、片方を腰に交互に当てながら歩く「ヤッコを踏む」所作(しょさ)が始まった。「ヤッコ」は古式子供相撲を特徴付けるもので、この所作を繰り返しながら土俵の外周を廻って土俵の中に入った。 |
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やっこふむ すもうわらべや どひょういり |
Ceremonial entrance to the ring, sumo children perform Yakko walk. |
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▲ 行司が土俵中央で北の神殿に向かって蹲踞(そんきょ)の姿勢を取り、その廻りを取り囲んだ年少組の豆力士たちは、様々な所作を組み合わせた土俵入りを披露した。 |
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▲ 年少組が土俵入りを披露しているなか、年長組がマスゲームのような動作を見せ、南から北に移動して土俵正面に背を向けて正座した。これは年長組9人が土俵入りを行うための準備行為である。 |
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▲ 年少組の土俵入りが終わり、南で正面を向いて正座すると、年長組の豆力士たちは、行司を先頭に時計回りに廻りながらヤッコを踏みつつ土俵の中に入った。 |
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▼ そして、土俵中央で北の神殿に向いて蹲踞(そんきょ)する行司の周りを廻りながら種々の所作を組み合わせた土俵入りを披露した。途中で、南で正座していた年少組が北に移動してきた。 |
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▼ 年長組の土俵入りに続いて、橋本・池澤・森井くんの三役による土俵入りが行われた。他の力士たちは、土俵から下がることなく、土俵の外周に正座して、三役の土俵入りを見ている。正面に背を向けて座っている子供たちが邪魔になるが、この土俵入りを考えた人は、観客のことよりも、豆力士全員、最後まで土俵から下りずに演技を行うことにこだわっているようである。 |
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三役(槁本・池澤・森井)の土俵入り 14:21 |
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▼ 続いて、橋本くんと池澤くんの二人組による土俵入りが披露された。土俵の廻りに正座している年少組は、緊張感が切れてしまったのか、練習で見飽きているためか、土俵入りを見ないでごそごそしている子がいておかしい。確かに、彼らにとっては退屈な時間である。土俵下に退避せず、私の目の前にいるのだから、その仕草が土俵入りよりも目に付いてしまうのは仕方のないことである。 |
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▼ 続いて、池澤くんと橋本くんの土俵入りに移った。池澤くんは、三役の池澤くんとは別人で、これで四人組の土俵入りが披露されたことになる。 |
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▼ 以上を持って、300年以上も昔から続いている古式子供相撲の土俵入りが終わり、豆力士全員が土俵上で円陣を組んで観客に向かって一礼したあと、赤襦袢を羽織り、土俵を下りた。宮司のお祓いが始まってから約30分が経過していた。 |
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豆力士たち17人は、古式子供相撲土俵入りの奉納を済ませたあと、宮入したときと同じ位置に一列縦隊に整列し、最後の参拝をして、予定の行事を終えた。 |
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最年少の本橋くんと橋本くん/最後の参拝 14:34
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▼ 新しく完成した土俵をバックに、金棒曳、行司、拍子木、力士のオールキャストが勢揃いして、記念写真を撮った。豆力士たちは、格好良く腕を組んでポーズを取った。お陰で、豪華な化粧まわしを一望することができた。こうして見ると、豆力士たちには橋本くんが多いことが分かる。 |
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屋根付きの立派な土俵は、国の補助を受けて今年完成したもの。組立式でないと援助が出ないということで、毎年、組立と解体・収納作業が必要である。この素晴らしい古式豊かな伝統文化を支える氏子総代会や保存会のご苦労が偲ばれる。 |
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▼ 豆力士たちは、記念写真を撮ったあと、金棒や行司を先頭に一列縦隊で行進し、行司宿に帰還した。リーダーの「良くやった」とのお褒めの言葉をもらって、子供たちから笑顔が漏れた。緊張の糸がほどけたようで、元の天真爛漫(てんしんらんまん)を取り戻したようだった。 |
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行司が途中で間違ったところがあり、子供たちに謝っていたのが印象的だった。子供たちの心を掴み、頼られるリーダーとして慕われている様子が良く分かった。子供たちからは、ご褒美がもらえることを教えてもらった。どんなご褒美かと尋ねると、お小遣いということで、1000円貰えるのが楽しみだと、屈託無く話してくれた。みんな元気で良い子たちばかりだった。 |
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大役を果たして笑顔を取り戻した子供たち/行事宿・礒野家 14:50
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▼ このあと、子供たちは、入浴したり、足を洗ったりすることもなく、そのまま茣蓙(ござ)の上で裸になり、洋服に着替えていた。汗や泥を流すのは、自宅に帰ってからということなのだろう。人前で裸になることに抵抗を感じるような子供は一人もなく、日本古来の裸文化を当たり前のように受け入れている子供たちをみて、とても頼もしく思った。 |
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このあと、神社境内の一角にある下組集会所(しもぐみ・しゅうかいしょ)で、古式子供相撲土俵入りを主宰する釣上神明社氏子総代会と釣上神明社子供相撲保存会の直会が開かれ、取材した後、午後3時半ころ帰途に着いた。 |
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古式子供相撲土俵入りがあることを知ったのは、internetの検索で偶然目にしたもので、JR中央線・西国分寺駅から武蔵野線に乗り換え、30分ほどで東川口駅に行き、そこからタクシーで1400円ほどの距離で神明社に着く。こんなに近いところに国指定重要無形民俗文化財があるとは思ってもみなかった。 |
さいたま市の教育委員会に電話して、密着取材を申し込んだところ、担当の女性事務員が保存会会長の橋本勇さんに電話してその可否を聞き、了解を得て電話番号を教えてくれた。とても丁寧な対応をして頂いたことに、お礼申し上げたい。 |
橋本さんに電話したところ、例大祭の流れを教えていただき、行司宿の集合時間や神事の時刻などが分かり、主催者である総代会会長の森田邦利さんにも連絡を取って頂いた。当日、神社でお二人に挨拶し、行司宿の取材から拝殿内での神事や直会まで、全ての取材を認めて頂いた。お陰で、その全貌を1500枚3.8GBに撮し取ることができた。 |
教育委員会の女性事務員が私のサイトを見て、「凄いホームページだ」と保存会に連絡してくれたようで、多くの方々のご厚意に心から感謝申し上げたい。取材途中で地元のさいたま市立新和(にいわ)小学校長の高良晴雄さんから私の写真を校内のギャラリーに展示したいとの依頼があり、保存会と校長にそれぞれ原画を全て収納したDVDをお送りすることにした。私の写真を大いに活用して頂ければ幸いである。 |
直会の来賓の挨拶を聞いていると、この伝統行事が多くの方々の支援により、今日に続いていることを知った。少子化で子供たちが少なくなり、20人近くの頭数を集めるのに四苦八苦している内情を知ると、伝統文化を伝承することの苦労が良く分かった。中高生がいないのは、受験勉強が始まり、土俵入りの練習をする時間が取れなくなり、学校側も学生が参加することを快く思わないと父兄が言っていた。教育現場における学力偏重教育のあり方が問われるところである。そのため、土俵入りは小学生までとしているという。このような話を聞くと、とても残念に思う。 |
埼玉県の国指定重要無形民俗文化財の数は、たった5つで、そのうちの1つがこの古式土俵入りであるという紹介もあった。日本一の人口を誇る東京都でもわずかに6つしかない。この重みを噛みしめることが大切だと思う。教育基本法の改正で、日本人の宗教心や相撲や柔剣道などの格技の伝承を学校でも取り組む道が拓けてきていることも紹介され、とても嬉しく思った。特に、相撲は戦後、学校から土俵が消え去り、児童がその文化に触れる機会が閉ざされてしまったままである。絶滅危惧種の状態にある日本の相撲文化を何とか次代に伝承していってもらいたいと思う。 |
なお、さいたま市岩槻区(旧岩槻市)の古式子供相撲土俵入りは、釣上(かぎあげ)の他に、笹久保(ささくぼ)でも行われており、この双方が国の重要無形民俗文化財に指定されている。笹久保の方は、隔年で敬老の日の前日に行われる。今年は開催しない年に当たっていたが、9月20日(日)に土俵入りが披露された。開催年でないために、神事が行われないということだったので、取材を断念し、来年、取材することにした。 |
この速報版は、子供たちの姿だけに限定しているが、後日発表する完成版には、神事や直会などのシーンも収録し、例大祭の流れに沿って古式子供相撲土俵入りの全貌を紹介する予定なので、乞うご期待! 2009.10.19 21:55 和田義男 |
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