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午後4時37分、外気温7℃のなか、待望の小池正明寺町 (こいけしょうめいじちょう) の手桶隊が楼門に向かってやってきた。全員、小池正明寺と墨書(ぼくしょ)された手桶を持っている。彼らは毎年、参道に数箇所設けられた水槽から手桶で水を汲み、神男の渦に力水を降りかける重要な任務を負っている。 |
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手桶隊登場!(午後4時37分) |
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手桶隊が参拝して参道に引き返したあと、間もなく神男が参道に現れ、はだか男たちが「ワッショイ!」「ワッショイ!」と声を掛けながら一斉に神男に殺到してはだかの渦が生まれた。今年の神男は神籤(みくじ)(御神籤 おみくじ)で選ばれた津田敏樹さん(31歳)。神男の警護役は水谷光晴さん(40歳)。 |
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水汲みを始めた手桶隊(午後4時55分) |
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4時55分、楼門に最も近い水槽に手桶隊が現れ、まるで働き蟻のように水槽から水を汲み、渦にかける作業を黙々と繰り返しはじめた。はだかの渦は木立の陰に隠れて見物席からはまだ見えない。 |
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人海戦術の手桶隊 |
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拡大写真(1400x1050)307KB
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午後5時5分、日没の太陽で楼門が仄かに赤く染まったが、裸の渦は左手の街路樹の向こうで停滞しているようで、楼門付近では、はだか男たちが神男が来るのを今か今かと待ちこがれていた。暗くなればこの位置からの撮影は無理なので、明るいうちに神男が楼門を通過することを神に祈るばかりであった。 |
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日没の参道・・・神男を待つはだかたち(午後5時5分) |
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パノラマ写真(1950x900)446KB |
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はだか男の渦 |
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午後5時13分、湯気を上げて徐々に楼門に向かってくるはだかの渦をレンズが捉えた。ぎりぎりの時刻である。 |
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湯気を上げて進むはだか男の渦(午後5時13分) |
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アップで捉えた渦 |
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アップで渦を捉えたのが午後5時15分。感度をISO400に上げ、全自動モード(P)からシャッター速度を1/125に設定して、シャッター優先モード(S)に切り替え、連写を始めた。手桶隊から容赦なく力水が掛けられている。 |
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渦に浴びせ掛けられる力水 |
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拡大写真(1200x900)323KB
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ファインダーは露出不足の警告が表示されているが、画面が暗くても階調さえ整っていればあとでどうにでもなる。スローシャッターの適正露光では、被写体ブレでピンぼけになり、写っていないのと同じことになる。 |
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濡れ鼠になって圧力に耐える男たち |
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拡大写真(1200x900)292KB
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結果は見てのとおり、オリンパス E-500 は完璧に裸の渦を捉えていた。渦の中心には全裸の神男がいるはずだが、銀塩450mm相当の望遠レンズを通したファインダーからは薄暗くて分からない。渦を取り囲む男たちの顔向きと湧き上がる湯気の位置で渦の中心を推測した。 |
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懸命に手を差し伸べるはだかたち |
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拡大写真(1400x1050)256KB
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午後5時18分、渦の中心が見物席の前にやってきた。はだか男たちが必死になって神男に触れようと群がっている様子を撮影することができた。写真が鮮明なのは、フォトショップで大幅な画像調整を施したためで、実際の画像はカメラの警告通り、露出不足の画面である。 |
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神男にタッチ!(午後5時18分) |
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拡大写真(1600x1200)398KB |
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渦の中心 |
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神男を中心にした渦が徐々に楼門に向かって移動している。レンズは渦の中心を捉え続け、楼門の中に入るまで180枚ほど撮影した。銀の楕円で囲んだ場所が渦の中心である。 |
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楼門に近づく神男の渦 |
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今回、楼門付近で待ちかまえていた坂本さんが神男に触れることに成功した。褌をしていなかったので間違いないという。三度目ということだが、このあと、原画を総てDVDに焼いて坂本さんに送り、神男が写っているかどうか判定してもらったが、確認できなかった。 |
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神男は事故防止のため、体毛を総て剃っているということで、頭もスキンヘッドだいう。何枚かの写真にはスキンヘッドが写っているが、神男かどうかは分からない。渦の中にいる神男を撮影するのは、至難の業である。 |
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楼門に達した渦(午後5時21分) |
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神男を写したコンテストの写真 |
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いずれにせよ神男が写っていたとしても頭部のみであり、本当に体毛を剃り落とした全裸であるのかどうかが分からない。そこで、國府宮から掲載の許可を頂いたのが、平成16年(2004)の第48回写真コンテストで特選に輝いた鈴木伸幸さんの「激走」と、平成14年(2002)の第46回写真コンテストで特選に輝いた真野宏平さんの「クライマックス」。
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全裸の神男 |
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鈴木伸幸さんの「激走」は、神男の救出のため、命綱(いのちづな)をつけた職員が儺追殿から渦の中に飛び込む瞬間をとらえた傑作(写真上)、真野宏平さん の「クライマックス」は、職員が渦の中から神男を救出し、儺追殿に引き揚げる一瞬を捉えた傑作である(写真下)。
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神社の説明どおり、神男は怪我を防ぐために全身の体毛を剃り落として肌がツルツルしている。しかし、身体の所々に打撲傷や引っ掻き傷が生々しく刻まれており、まさに命がけの行である。はだか男は、相撲を取るときと同じように、必ず爪を切っておかなければならない。 国府宮第48回写真コンテスト 国府宮第46回写真コンテスト
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戦い終わって・・・泥道の参道を帰るはだか男たち |
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はだか祭の勲章 |
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楼門から向こうは密集していて既に入場禁止になっているので、神男が楼門を通過した後は、参道にいたはだか男たちは一斉に引き揚げていった。乾いていた参道も手桶隊の散水で泥道になっている。
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写真上の右側の男は両膝から血が滲んでいる。他にも血が出ている人が見かけられ、神男を巡って渦の中で激しい争いが繰り広げられたことがよく分かる。 |
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厄落の代わりに祭の勲章を得たはだか男(午後5時32分) |
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撮影 2006年2月10日
OLYMPUS
E-500 E-300
11-22mm 14-54mm 40-150mm
800万画素 3000枚 5120MB
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命がけの祭り |
平成15年(2003)の祭りでは、楼門付近で転倒したはだか男が圧死するという痛ましい事故が発生した。 |
國府宮のホームページでは、転んだときはうつぶせの防御姿勢を取るよう指導している。しかし、経験者に聞くと、将棋倒しになれば、巨大な圧力でなすすべもなく、生死は神に祈るしかないという。 |
この祭りのフィナーレは命がけで行われており、愛知県警は雑踏警備に全力を注いで、事故防止に努めている。 |
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感動のはだか祭 |
はだか祭には見せ場が沢山あり、撮影した私自身、ワクワクしながらシャッターを切っていたので、ファンの方もきっと喜んで見て頂いたと思う。最後に劇的なフィナーレがあり、命を掛けたドラマが更に感動を呼ぶ。 |
凄い祭りだとは聞いていたが、前半の楽しい祭りから一転して激しい裸の渦の凌ぎ合いという結末が設定されているのは矢張り驚きで、これはまさしく奇祭である。日本三大奇祭は、四天王寺どやどやを外し、黒石寺蘇民祭と西大寺会陽とともに國府宮のはだか祭を加えるべきだと思った。 |
これほどまでに非日常のお祭りに打ち込む魅力とその原動力はどこから来るのだろうか。全裸の神男は、日本古来の裸文化でしか生み出し得ない独自性溢れる存在である。國府宮の裸祭りは日本人のアイデンティティを限りなくふくらませてくれる祭りであった。〈 完 〉 |
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謝 辞 |
この作品の前半は、鐵砲洲稲荷神社寒中水浴大会でお世話になった三木さんの紹介で、この祭りに10年前から参加しておられる千葉市在住の坂本勇一さんのご指導を受け、坂本さんが参加されたはだか連の様子を忠実に再現することができました。 |
お陰様で、伝統の祭りに挑むはだか男たちの素顔や心意気を捉えた作品に仕上げることができました。三木さんや坂本さんはじめ、お世話になった皆様方に心より感謝申し上げます。 |
國府宮社務所の皆様には、私の厚かましいお願いをお聞き届け頂き、写真コンテストで特選となった2枚の写真を掲載させて頂きました。また、原画を収めたDVDをお送りしたところ、厄除浄布やはだか祭絵馬などをお送り頂きました。私にとって身に余る光栄であり、ここに厚く御礼申し上げます。 |
末筆ではありますが、皆様方の今後益々のご健勝とご発展、そして、これからも続くはだか祭のご盛況とご安寧を祈念しております。有り難うございました。 2006.2.26 〈 合掌 〉 |
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