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2月10日(金)愛知県稲沢市(いなざわし)に鎮座する尾張国府宮(おわり・こうのみや)で行われた裸祭りの速報版が今日完成した。国府宮のはだか祭は正しくは儺追神事(なおいしんじ)といい、毎年旧正月の13日に斎行される。なおい笹を奉納した裸男(はだかおとこ)たちが厄を落とすべく全裸の神男(しんおとこ)に触れようと揉み合う勇壮な祭りで、江戸時代の末頃から始まったという。今年は9千人のはだか男と14万人の観衆が国府宮に押し寄せ、大規模な裸のページェントが繰り広げられた。 |
国府宮の正式名は尾張大國霊神社(おわり・おおくにたま・じんじゃ)といい、翌日午前3時に斎行される「夜儺追神事(よなおいしんじ)」が本来の祭りで、その起源は古く、約1200年前の奈良時代、称徳天皇の勅命により悪疫退散の祈祷が全国各地の国分寺で行なわれた際、尾張国司が総社である国府宮において祈願したことに始まるという。 国府宮公式サイト |
巨大な鏡餅が奉納された尾張国府宮拝殿 |
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鐵砲洲稲荷神社寒中水浴大会でお世話になった三木芳樹さんの紹介で、この祭りに10年前から参加しているという千葉市在住の坂本勇一さんとJR東京駅で合流して新幹線に乗り、名古屋駅から名鉄本線に乗り換え、昼前に名鉄・国府宮駅に着いた。直ぐに国府宮の参道を通り、楼門をくぐって拝殿に行った。(写真上)既にかなりの人混みだった。 |
坂本さんは古神札納所(ふるいおふだおさめしょ)(写真上左端)で去年の儺追布(なおいぎれ)を返納した後、拝殿に向かって右にある儺追殿(なおいでん)で新しいなおいぎれを入手した。紅白模様のなおいぎれには、赤地に白く「なおい」の文字が染め抜かれ、白地に赤く「國府宮」の文字が染められている。(写真下) |
神男が渦から引き揚げられる儺追殿(なおいでん) |
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1本100円の儺追布(なおいぎれ) |
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神社や参道を下見して取材計画をたてた後、坂本さんがいつも参加するはだか連の写真屋さんに行った。この店にお願いすると、部外者でも5000円ではだか男になれる。店に着くと、神社に奉納するなおい笹の準備が行われていた。 |
なおいぎれを預かる |
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なおいぎれを儺追(なおい)笹に結ぶ |
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全国から集まったはだか男たちは写真屋さんの二階で晒木綿一反(35cmx10m)を使って腹巻・褌姿となり、お神酒を酌み交わして出陣式を行ったあと、午後1時前、白の地下足袋にバラエティ豊かな鉢巻を締めてあらわれた。 |
地元の氏子と共に記念写真を撮った後、先導者の指揮によりなおい笹を担ぎ、店の前から意気揚々と出発。「ピッピッ」「わっしょい!」「ピッピッ」「わっしょい!」・・・と軽快なリズムで歩行者天国となった町内の車道を蛇行しながら練り歩いた。 |
全国から集まったはだか男たち |
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なおい笹を担いでいざ出発! |
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写真屋さんは参道の直ぐ西にあるのだが、例年どおり、名鉄・国府宮駅前から駅前商店街を通って参道に入る迂回コースをとった。商店街では観衆の人垣に突っ込んだり、女の子の頭をなでたりと、地元市民とのスキンシップを図っているのが印象的だった。厄を拾っていくという趣旨なのだろう。 |
名鉄・国府宮駅前 |
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町内を練り歩く |
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はだか祭は、参道入口の石鳥居前の交差点が最初の見せ場となっている。三方向からさまざまな「はだか連」がなおい笹を持って乗り込んでくる。警備している警察官は、「間もなくはだか男が来ます。危ないから道路には入らないで下さい。」とアナウンスし、その都度ロープを張り、横断歩道から観客を排除する。はだかたちは、最初にこの交差点をひとまわりして気勢を上げ、なおい笹を垂直に立てる。 |
参道入口で盛り上がるはだか連 |
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グループによっては、笹を立てると同時にのぼり始める人もいる。笹竹が途中で折れることもあり、長老たちはハラハラして見守っている。登らせないように足を引っ張る人もいる。全員、程度の差はあれ酒が入っているので、子供のように陽気で羞恥心もなくなっている。背中の落書きもそのせいだろう。 |
なおい笹をよじ登る男たち |
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ひとしきりパフォーマンスを終えた一行は、石鳥居をくぐり、参道に入る。町内神輿のように順番はなく、到着順に宮入するようだ。坂本さんのグループは午後1時と3時の二回、宮入をした。二回目の宮入でなおい笹を拝殿に納めた。この日奉納される笹竹は、大小あわせて100本ほどになるという。 |
参道に入る男たち |
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国府宮の参道は幅広くかなりの距離がある。参道の両側にはベニヤ板が張られ、観客は立入禁止になっている。やがて時が経つにつれ、この広々とした空間が何千人というはだか男たちで一杯になってゆく。ガラス瓶の一升酒は割れると危ないので持ち込み禁止となり、今はやりの紙パックの一升酒を携える酒飲みもいる。
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参道を縦横無尽に駆け回るはだか男たち |
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国府宮の約27,000m2の境内には、楼門や拝殿など貴重な文化財が建っている。特に印象的な楼門は室町時代の建築と伝えられ、国の重要文化財である。拝殿もこの地方の代表的な神社建築で、楼門から拝殿、本殿までの配置が一直線上になく、「く」の字状になっており、尾張風といわれる建築方式を伝えている。 |
楼門に向かって左に木造三階建ての櫓(やぐら)があり、三階が愛知県警の警備指揮所、二階が報道関係席となっている。私は櫓の対面にある店の屋上に設けられた有料観覧席の当日券を5000円で買い、前から三列目に陣取った。脚立が使えないので、立ったまま、前方のカメラマンの間隙や頭越しに何とか撮影することができた。 |
楼門を通過する巨大ななおい笹(午後4時半) |
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巨大ななおい笹が次々と楼門を通過した後、参道は神男を待ち受けるはだか男たちで一杯になった。神男は参道のどこから入ってくるか分からないが、必ず楼門を通って儺追殿に向かうので、楼門付近が一番の混雑となる。 |
午後4時37分、外気温7℃のなか、待望の小池正明寺町 (こいけしょうめいじちょう) の手桶隊が楼門に向かってやってきた。全員、小池正明寺と墨書(ぼくしょ)された手桶を持っている。彼らは毎年、参道に数箇所設けられた水槽から手桶で水を汲み、神男の渦に力水を降りかける重要な任務を負っている。 |
手桶隊登場!(午後4時37分) |
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手桶隊が参拝して参道に引き返したあと、間もなく神男が参道に現れ、はだか男たちが「ワッショイ!」「ワッショイ!」と声を掛けながら一斉に神男に殺到してはだかの渦が生まれた。今年の神男は籤(くじ)で選ばれた津田敏樹さん(31歳)。神男の警護役は水谷光晴さん(40歳)。4時55分、楼門に最も近い水槽に手桶隊が現れた。 |
人海戦術で水を汲む手桶隊(午後4時55分) |
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午後5時5分、日没の太陽で楼門が仄かに赤く染まったが、裸の渦は左手の街路樹の向こうで停滞しているようで、楼門付近では、はだか男たちが神男が来るのを今か今かと待ちこがれていた。その中で、手桶隊がまるで働き蟻のように水槽から水を汲み、渦にかける作業を黙々と繰り返していた。暗くなればこの位置からの撮影は無理なので、明るいうちに神男が楼門を通過することを神に祈るばかりであった。 |
日没の参道・・・神男を待つはだかたち(午後5時5分) |
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遂に裸の渦が湯気をたてながら我々の前面に現れた。望遠レンズが渦の中心を捉えたのが午後5時15分。ぎりぎりの時刻である。感度をISO400に上げ、全自動モード(P)からシャッター速度を1/125に設定して、シャッター優先モード(S)に切り替え、連写を始めた。ファインダーは露出不足の警告が表示されているが、画面が暗くても階調さえ整っていればあとでどうにでもなる。スローシャッターの適正露光では、被写体ブレでピンぼけになり、写っていないのと同じことになるのだ。 |
神男にタッチ!(午後5時18分) |
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結果は見てのとおり、オリンパス E-500 は完璧に裸の渦を捉えていた。渦の中心には全裸の神男がいるはずだが、銀塩450mm相当の望遠レンズを通したファインダーからは薄暗くて分からない。渦を取り囲む男たちの顔向きと湧き上がる湯気の位置で渦の中心を推測した。写真が鮮明なのは、フォトショップで大幅な画像調整を施したためで、実際の画像はカメラの警告通り、露出不足の画面である。 |
神男に向かう裸の渦 |
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今回、楼門付近で待ちかまえていた坂本さんが神男に触れることに成功した。三度目ということだが、このあと、原画を総てDVDに焼いて坂本さんに送り、神男が写っているかどうか、判定してもらうことにしている。事故防止のため、体毛を総て剃っているということで、今年の神男の頭もスキンヘッドだいう。 |
濡れ鼠になって圧力に耐える男たち |
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いずれにせよ神男が写っていたとしても頭部のみであり、本当に体毛を剃り落とした全裸であるのかどうかが分からない。そこで、国府宮から掲載の許可を頂いたのが、平成16年(2004)の第48回写真コンテストで特選に輝いた鈴木伸幸さんの作品と平成14年(2002)の第46回写真コンテストで特選に輝いた真野宏平さんの作品。 |
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鈴木伸幸さんの「激走」は、神男の救出のため、命綱(いのちづな)をつけた職員が儺追殿から渦の中に飛び込む瞬間をとらえた傑作(写真上)、真野宏平さん の「クライマックス」は、職員が渦の中から神男を救出し、儺追殿に引き揚げる一瞬を捉えた傑作である(写真下)。 |
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神社の説明どおり、神男は怪我を防ぐために全身の体毛を剃り落として肌がツルツルしている。しかし、身体の所々に打撲傷や引っ掻き傷が生々しく刻まれており、まさに命がけの行である。はだか男は、相撲を取るときと同じように、必ず爪を切っておかなければならない。 国府宮第48回写真コンテスト 国府宮第46回写真コンテスト |
戦い終わって・・・泥道の参道を帰るはだかたち |
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楼門から向こうは密集していて既に入場禁止になっているので、神男が楼門を通過した後は、参道にいたはだか男たちは一斉に引き揚げていった。乾いていた参道も手桶隊の散水で泥道になっている。右の男は両膝から血が滲んでいる。他にも血が出ている人が見かけられ、神男を巡って渦の中で激しい争いが繰り広げられたことがよく分かる。 |
祭りの勲章 |
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平成15年(2003)の祭りでは、楼門付近で転倒したはだか男が圧死するという痛ましい事故が発生した。国府宮のホームページでは転んだときはうつぶせの防御姿勢を取るよう指導している。しかし、経験者に聞くと、将棋倒しになれば、巨大な圧力でなすすべもなく、生死は神に祈るしかないという。この祭りのフィナーレは命がけで行われており、警察は雑踏警備に全力を注いで、事故防止に努めている。 |
凄い祭りだとは聞いていたが、前半の楽しい祭りから一転して激しい裸の渦の凌ぎ合いという結末が設定されているのは矢張り驚きで、これはまさしく奇祭である。日本三大奇祭は、四天王寺どやどやを外し、黒石寺蘇民祭と西大寺会陽とともに国府宮のはだか祭を加えるべきだと思った。(完) |