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■■■ 還暦に命の洗濯 ■■■
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平成19年(2007)3月6日、亥年の私は満60歳の還暦を迎えた。知人から「とうとう還暦ですね。人生の節目として感慨深いものがあるでしょう。」と言われたが、4年前に再就職して以来、毎日我が家とオフィスのある新宿を往復するサラリーマン生活に変わりはなく、日本人男性の平均寿命が80歳近いことを思うと、まだまだ先は長いという気があるので、節目を迎えたとはいっても特別な感慨はなかった。 |
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しかし、昔から還暦は大厄といわれていることもあり、還暦記念として、3月の末、家内と共に都内の西台クリニック画像診断センター*1でペット(PET;Positron Emission Tomography 陽電子放射断層撮影法)*2による癌検診を受け、また、4月初めには脳ドックを受けた。 |
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*1西台クリニック画像診断センター:http://www.ncdic.org/ *2ペット(PET):http://www.ko007.com/good/ |
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その結果、家内は異常なかったが、私の方は「PETで下行結腸あたりへの集積があります。主要マーカーの上昇はありませんが、便潜血は2回とも陽性です。」と書かれた報告書が精密検査のための紹介状と共に送られてきた。 |
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虎の門病院/東京都港区 |
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そこで、5月初旬に私の勤めるオフィスビル5階で開業している平塚胃腸病院附属新宿センタービルクリニックに紹介状を持参し、大腸の内視鏡検査を受けたところ、左下腹部に3cm大のポリープ(腫瘍)が見つかった。部分的な生検の結果は良性だったが、そのまま放置しておくと癌になる可能性があるので手術を勧められ、虎の門病院*3宛の紹介状を書いてもらった。 |
*3虎の門病院 http://www.toranomon.gr.jp/site/view/index.jsp |
5月の中頃、虎の門病院消化器科に行って受診したところ、再度内視鏡検査を行って内視鏡切除が可能かどうかをチェックすることになり、5月の末、内視鏡検査を受けたところ、難しい部位ではあるが何とか内視鏡切除ができることが判明したので、一週間入院することになった。 |
7月23日(月)虎の門病院新館8階の4人部屋の無料ベッドに案内され、パジャマ姿になって患者に変身。夕刻、家内と共に医師から手術の種類や必要性、危険性など詳しく説明され、手書きの略図付き説明書と手術の同意書に署名し、その写しを貰った。(インフォームド・コンセント) |
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もし、不安があるなら、別の病院に行っても良く、その際は、有料だが全ての資料の貸し出しが可能とのことだった。(セカンド・オピニオン) |
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私が受ける内視鏡切除は、腫瘍の根元をワイヤーの輪で囲み、電流で焼き切るイー・エム・アール(EMR ; Endoscopic Mucosal Resection 内視鏡的粘膜切除術)ではなく、イー・エス・デー(ESD ; Endoscopic Submucosal Dissection 内視鏡的粘膜下層剥離術)というもので、腫瘍の周辺部の正常な粘膜に針で液を注入して粘膜にできた腫瘍を浮き上がらせ、腫瘍周辺の正常な粘膜もろとも電気メスでぐるりと焼き切って腫瘍を切り取る方法である。 |
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腫瘍が粘膜下層やその先の筋肉まで達していると、更に丹念に腫瘍をそぎ落とさなければならず、それが深いと大腸に穴が空いて腹膜炎を起こす危険性があるので、その場合は外科手術により、腫瘍部位の大腸を輪切りにして切除することになるが、全身麻酔と3週間の入院が必要になるという。 |
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翌7月24日(火)午後3時頃から主治医の矢作(やはぎ)医師によるESDが行われ、腫瘍は1時間もかからないうちに綺麗に切除された。麻酔をかけていないので、液晶ディスプレーに映し出される切除術の様子を最後まで見ることができた。痛みもなく、手慣れた見事な手術だった。 |
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当日は、ベッドに張り付けとなり、点滴で水分と栄養を補給、排尿も溲瓶(しびん)を使用するという大手術を受けた重病人扱いだったが、痛みは皆無で、本を読んだり、テレビを見たりして退屈を紛らわした。25日(水)昼食から半粥の食事が出るようになり、点滴の針も外された。唯一困ったことは、一日中寝たきりで腰が痛くなったことだった。一日でこれだから、長期の寝たきりの人の苦労は大変だろうと思った。26日(木)から夜のシャワーが許され、27日(金)の朝食から粥の食事となった。 |
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27日(金)夜、摘出した腫瘍をスライスして顕微鏡で詳しく検査した生検の結果報告書をもらい、その説明を受けた。大腸腫瘍は2.5cm大で、粘膜内に留まっており、癌になる一歩手前の高度異型線種の範囲にあり、きわどく良性の状態で腫瘍を全摘することができたとのことだったので、安堵した。用心のため、半年後に内視鏡検査を受けることになり、予約を取った。こうして、28日(土)午後、後顧の憂いを残すことなく晴れて退院することができた。わずか6日間の入院だった。 |
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切除した部位の傷は、周辺部から徐々に癒されて、最後は粘膜で覆われてもとの状態になるが、それまでは出血の恐れがあるので、1ヵ月は激しい運動を避け、用心するように言われた。2週間の禁酒となったが、普通の入浴や食事は全く自由であるという。退院の日も粥の食事だったのに、これには驚いたが嬉しかった。 |
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★☆★彡 |
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PETやESDという先端医療のお陰で、早期診断・早期治療が可能となり、還暦という大厄を迎えた年に思わぬ命の洗濯をすることができた。 |
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7月27日(金)の朝日新聞朝刊には、日本人の平均寿命が男女ともアップし、女性は85.81歳(22年間世界第1位)、男性は79.00歳(前年の世界第4位から第2位に躍進)となったとの報道があったが、癌になる前の段階で病根を探知し、簡単に除去する医療技術の進歩が延命に一役買っていることを身をもって知ることが出来た。癌、心臓病、脳血管疾患の三大疾患を克服できれば、日本の男性の寿命は8.31歳、女性は7.20歳延びるという。今後の更なる医療技術の進歩を期待したい。 |
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多くの方々のお陰で生かされている命を大切にし、その終焉を迎える日まで、日々感謝しながら充実した人生を大切に送りたいと思う。私の癌の芽を摘み取って頂いた医療関係者の方々に心からお礼申し上げたい。 |
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アメリカで発明されたPETは、癌には糖が集積するという性質を利用し、放射化した糖を注射し、CTスキャンのように頭部を除く全身の糖の集積状況を撮影して癌を探知する。私のように癌になる一歩手前の状態でも見つけることが出来る画期的な方法であり、苦痛を伴わず、手軽に受診できる。この装置は高価であるが、全国の病院に導入されつつあり、最近、青梅市民病院でもPETを受けられるようになった。 |
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私は4年前、退官記念に西台クリニックで初めてPETを受診した。今回、青梅市民病院を利用せず、同じところで二度目の検査を受けたのは、PETにより得られた画像を解析するノウハウが優れている専門医にかかることが重要だと思ったためで、それが奏功して癌になる前の腫瘍を探知することができた。 |
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昭和天皇は癌で亡くなられたが、最高水準の医療陣をもってしても癌を早期発見できず、見つかったときには手遅れだった。私の母は胃の外側に癌ができていて、バリュウムや胃カメラによる検診でも探知できなかった。いずれもPETが間に合っていれば助かったのにと残念に思っている。 |
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PETは、頭部以外の全身をくまなく検査できるので、どのようなところにできた癌でも早期に探知することができる優れた検査方法である。この短い闘病記を書こうと思ったのは、私と同世代の方々に多少とも参考になればと思ったからである。日本人の3人に一人が癌で死ぬ現代。PETをまだ受けたことのない方は、是非一度受診されることをお勧めする。〈 完 〉
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