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午後1時35分、我々の乗ったゴンドラは、垂直に近いケーブルに引かれてグングン登って行った。ゴンドラから下界を覗くと、東側に強烈な太陽光線を浴びながら夏山登山に挑む人たちが蟻のように尾根を登ってくる姿が見えた。ヴァレー・ブランシュ* Vallee Blanche からミディ針峰の雪稜**(せつりょう)を登るクライマーたちである。 |
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*ヴァレー・ブランシュ:「白い谷」というモンブラン山系最大の氷河。20kmの氷河大滑降ルートで有名。
**雪稜:英語でスノーリッジ snow ridge といい、雪で出来た稜線や尾根のこと。 |
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ゴンドラの西側を見ると、シャモニ谷に向かって流れ落ちるメール・ド・グラス氷河が見えた。谷底にシャモニが箱庭のように見え、それを襲う巨大な氷河を見ると、大自然の抗しがたい迫力を感じる。ここでは、地球温暖化のお陰で、氷河の脅威が遠ざかっている。 |
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シャモニーに向かって流れ落ちる氷河 |
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プラン・ドゥ・レギュイーユ Plan de l'Aiguille
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中継駅のプラン・ドゥ・レギュイーユ Plan de l'Aiguille (2,317m)で、頂上行きのゴンドラに乗り換える。頂上付近では、エレベーターのように垂直に上昇する感じがする。軽いショックで揺れると悲鳴が上がる。 |
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ミディ針峰の頂上に向かうゴンドラ |
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エギーユ・デュ・ミディ Aiguille du Midi
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富士山(3,776m)よりも高いエギーユ・デュ・ミディ(3,842m)はシャモニからのロープウェーが1955年に開通し、モンブランの眺望に理想的な場所となった。エギーユ・デュ・ミディは日本では短く「ミディ針峰」と呼ばれるが、フランス語で「南面の針」という意味。 |
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ほぼ垂直に上昇するゴンドラ |
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ゴンドラはエギーユ・デュ・ミディ北峰(3,777m)に着く。橋を渡ってエレベーターで上ると宇宙ロケットのような尖塔が建つ中央峰(3,842m)に至る。高所恐怖症の人でなくても恐怖で足がすくんでしまうほど急峻である。 |
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エギーユ・デュ・ミディ中央峰(3,842m)に建つ展望台 |
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中央峰から見下ろすと、北峰の展望台が見える。まるでスタジオ・ジブリのアニメ「天空の城ラピュタ」を思わせる要塞のようで、どのようにして築いたのか不思議なほど。約2800m下にはシャモニの細長い町並みが見える。 |
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エギーユ・デュ・ミディ北峰に建つ展望台 |
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思い思いに眺望を楽しむ人たち |
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展望台の東方にヨーロッパ最高峰のモンブラン(4,807m)が見えた。残念ながら山頂に笠雲がかかっている。その左にはアイガーとマッターホルンと共に世界三大北壁の一つに数えられるグランドジョラス(4,208m)が見える。 |
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エギーユ・デュ・ミディ展望台の景観を楽しむ人たち |
グランドジョラス(4,208m)↓ |
モンブラン(4,807m)↓ |
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かさぐもや なつのねしろき もんぶらん |
A cap cloud, the white peak
of summer Mont Blanc. |
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ヨーロッパ・アルプスの最高峰、標高4,807mのモンブランはフランスとイタリアの国境にあり、フランス側が「白い山」と名付けたように白雪の美しい山容を呈しているのに対し、イタリア側は荒々しい岩稜と氷壁を形成している。 |
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ヴェールを被ったモンブラン(4,807m) |
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イタリア側から見たモンブラン Monte Bianco
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モンブランのイタリア名はモンテ・ビアンコ Monte Bianco 。フランス側からの登頂は比較的容易だが、イタリア側はアルプスで最もスケールが大きい困難なルートばかりで、熟練者でなければ登れないという。 |
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イタリア側の険しいモンブラン |
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撮影:南光 優 2006.7.23 |
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エギーユ・デュ・ミディ北峰(3,777m)展望台に向かうイタリア側のゴンドラ |
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撮影:南光 優 2006.7.23 |
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イタリア側からエギーユ・デュ・ミディの岩壁を登る二人
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南光優さんは、7月23日、イタリア側のゴンドラでエギーユ・デュ・ミディ北峰(3,777m)展望台に向かう途中、ロック・クライミング中の二人を激写。先頭のクライマーが岩にハーケンを打ち込み、カラビナに通したザイルを下のクライマーに送っている。 |
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岩壁を先導するクライマー |
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撮影:南光 優 2006.7.23 |
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白いヘルメットを被った二人目のクライマーは、送られたザイルを頼りに登攀している。垂直の岩壁の割れ目を巧みに利用して登ってゆく様子がよく分かる。何もしないで富士山頂よりも高い峰に運んでくれるゴンドラの何と有り難いことか! |
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ザイルを頼りに追従するクライマー |
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撮影:南光 優 2006.7.23 |
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後刻、エギーユ・デュ・ミディ展望台の氷洞に到着した3人のパーティに出会った。自信に満ちた動作や表情を見るまでもなく、先頭の男性がリーダーである。後の二人はシッカリと追従している。無事登頂、おめでとう! |
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エギーユ・デュ・ミディ展望台の氷洞に到着した3人のクライマーたち |
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撮影:南光 優 2006.7.23 |
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モンブラン初登頂 |
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「魔の山」と恐れられていたモンブランの初登頂は1786年(天明6年)8月8日。スイス人地質学者ソシュールの賞金提供がきっかけで、地元シャモニの医師ミシェル・ガブリエル・パカールと水晶採掘人ジャック・バルマの二人がフランス側から登頂に成功し、これがアルプスでのスポーツ登山の開幕となった。外交官日高信六郎による日本人初登頂は1921年(大正10年)夏。 |
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ちなみに、モンブラン初登頂から遅れること約80年、イギリス人登山家エドワード・ウィンパー率いる7名のグループがマッターホルン(4,478m)の初登頂に成功したのが1865年(慶応元年)7月14日。8度目の挑戦であった。これによりツェルマットの名は一躍ヨーロッパ中に注目され、その後、山岳リゾート地として発展した。 |
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モンブラン(4,807m)の巨大な山塊と観客たち |
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パノラマ写真(2000x900)296KB |
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グランドジョラス Grandes Jorasses
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グランドジョラス(4,208m)は、ヨーロッパ・アルプスのモン・ブラン山群にある名峰で、フランスとイタリアの国境に約1kmの長さでのびている。頂稜には、東峰(最高点、ウォーカー・ピーク、4,208m)、西峰(ウィンパー・ピーク、4,184m)、クロ・ピーク(4,110m)、エレーヌ・ピーク(4,040m)、マルグリット・ピーク(4,066m)、ヤング・ピーク(3,996m)の六つのピークが連なっている。 |
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1865年(慶応元年)に エドワード・ウィンパーの一行によって西峰が初登頂されたのち、最高点の東峰は1868年(慶応4年)に H. ウォーカーの一行によって初登頂された。 |
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北 壁 |
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グランドジョラスの北壁は、アルプス登山史上特に有名で、クロ・ピークに抜け出る高度差1,000mの中央側稜(ちゅうおうそくりょう)は、1935年(昭和10年)ドイツ人 R. ピーターと M. マイヤーが初登攀(とうはん)。ウォーカー・ピークに抜け出る高度差1,200mのウォーカー側稜は、1938年(昭和13年)イタリア人の R. カシン、G.エスポジト、U. チゾニが初登攀した。 |
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グランドジョラスのウォーカー 側稜(北壁)は、マッターホルンとアイガーと共にヨーロッパ三大北壁の一つ。 |
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シャモニ針峰群とグランドジョラス |
マウスカーソルで画面のどこかをポイントすると説明が現れます。 |
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キバシガラス Alpine Chough |
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嘴(くちばし)が黄色いカラスがいた。キバシガラス(黄嘴烏)である。学名は Pyrrhocorax graculus 、フランス語では Chocard des Alpes 、英語では Alpine Chough 。ヨーロッパ・アルプスやヒマラヤの高山に棲むカラスで、ヒマラヤでは8,235mの高さで観察されており、鳥類の最高所観察記録だという。足環があるので、捕獲されて観察対称になっているようである。 |
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空気が薄い高地にいるキバシガラス |
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姿を現したモンブラン |
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皆の念力が通じたのか、間もなく笠雲がなくなり、ふっくらしたマシュマロのようなモンブランの山頂が現れた。 |
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ヴェールを脱いだモンブラン! |
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マッターホルンに続いて、モンブラン(4,807m)も快晴の青空を背景に純白の容姿を惜しみなく見せてくれて一同大感激。純白の表面には登頂ルートがクッキリと残されているのが見える。 |
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登頂ルートが残るモンブラン山頂付近 |
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モンブランのパノラマ望遠写真 |
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222mmの望遠で2枚の写真を撮影し、パソコン・ソフトで貼り合わせて、5687x2303=13097161ドット(1300万画素)のパノラマ写真が生まれた。解像力もシャープで、クライマーたちが芥子粒(けしつぶ)のように写っている。 |
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モンブランの芥子粒のようなクライマーたち |
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パノラマ望遠写真(3000x1215)455KB (E-500 1/500 F8.0 SIGMA:222mm ISO100 2枚貼り合わせ ) |
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眺望を堪能した後、予約した番号のゴンドラで下山した。北峰のロープウェー乗り場では、途中から右に行くとイタリア側に降りてしまうことになるので、注意して進んだ。ゴンドラの東側の窓からシャモニ針峰群が見えた。 |
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シャモニ針峰群 |
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更に降りて行くと、シャモニが見えてきた。南北をアルプスの岩山に囲まれた谷底に横たわる細長い町である。この日はシャモニで一泊。疲れが溜まっていたので、このあとは何処にも行かず、ホテルで休養した。 |
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細長い谷底の町シャモニ |
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